高騰している保険の銀歯治療の欠点とは?

 歯みがきの回数だけではむし歯予防はできない

厚労省によると日本人の95%が毎日歯を磨いており,1日2回以上歯を磨く人は70%以上もいるそうです.

近年,子供のむし歯は減少傾向になっていますが,それでも,平成28年の歯科疾患実態調査によると4歳〜8歳時点で,程度の差こそありますが,4割がむし歯を保有しているという結果が出ています.

歯を磨くのが当たり前になっている日本人ではありますが,むし歯の数はいまだに全ての年代で0にはなっていません.これは一体なぜなのでしょうか?

 むし歯を治療をしたにも関わらずその後もむし歯が増えてしまうという事実

今では麻酔が当たり前になっていますので,治療時に痛みを我慢しながら治療をすることはまずほとんどありませんが,それでも大きなストレスを感じながら歯医者で「むし歯を削り,銀歯を入れたり,プラスチックを詰めれば,治療は終わり」と,いまだに多くの日本人が考えています.

ところが,この考えは全くの誤解です.むし歯はそもそも「細菌感染症の結果」なのですが,削って詰めるのは,その結果の後始末=補修に過ぎないのであって,むし歯菌の感染症が治ったわけではありません.削って詰めたり,かぶせものをしたとしても,むし菌を減らす対策をしなければ,銀歯の下や銀歯と歯の隙間に再度すみかをつくり,定着します.治療済みの銀歯の下にむし歯が再発したり,急激に痛みだした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか.治療が完了したと思っていた銀歯の下では,対策をしなければ再度むし歯ができ始めていることを知ってほしいと思います.

日本のむし歯治療の多くが治療のやり直しだと言われていますが,歯を削り,銀歯を詰め,完治したはずのむし歯なのに,再度治療が必要になってしまうのはどうしてなのでしょうか?

 「むし歯をけずって詰める治療の終了=むし歯の完治」という勘違い

主にミュータンス菌という菌がむし歯の原因菌として知られています.歯に穴が開いてしまうようなむし歯になってしまった場合は,歯科医院に行けば削り,「治療」をします.この「削る治療=完治」ではないと考えていただきたいと思います.むし歯を削り,銀歯やプラスチックを詰めるという行為は,本質を考えると「治療」ではなく,修理や修復にあたります.

治療によって歯が治ったと安心し,その後のメンテナンスを軽視すればむし歯再発の可能性は非常に高くなります.

このように一度治療をしたところが再び虫歯になったものを二次う蝕(にじうしょく)といいます。スウェーデンのイエテボリ大学予防歯科学のアクセルソン教授は,患者の歯が30年の間にどんな経過をたどるのかという研究成果を発表しています(2004年ournal of Clinical Periodontolog).その結果,発生したむし歯の約80%が二次う蝕であると述べています.

むし歯はメインテナンスを怠れば再発の可能性が非常に高く,歯医者では毎日のようにむし歯治療のやり直しをしている

治療としては歯の浸食された部分を削り取って人工の修復物で補う処置を行います.お口の環境整備ができない限り,一度治療をしたところは再び虫歯になるリスクがありますが,その理由の1つは被せ物や詰め物と自分の歯との間に隙間や境目ができることにあります.また,銀歯は腐食しやすく,歪みを生じやすい特徴があります.ひとたび詰め物と歯との間に隙間ができると,そこにはミクロン単位の大きさの細菌のすみかを形成して,再発を繰り返してしまいますし,被せ物も歯ぐきが下がると隙間ができてしまい,そこからむし歯の再発が起きやすいです.

詰め物・被せ物には毎日体重ぐらいの衝撃が数百回かかる.

治療によって被せ物を入れる治療では,削った歯の型を取り,そこに合わせて作った修復物を歯科用セメントで接着します.初めのうちはぴったりと密着していますが,日々「噛む」ことで強い衝撃がさまざまな方向から加わりますし,そのセメントが劣化して崩れ,剥がれ落ち,すき間ができてしまいます.そのすき間から容易に細菌が入り込み,定着,繁殖することでかぶせものの内部もむし歯になることがあります.また,保険の材料は銀歯かプラスティックですが,お口の中で使用するには,どちらも長持ちさせづらい欠点があります.

銀歯は錆びるし,ゆがみやすい.プラスチックは早くすり減り,割れやすい.

銀歯は,ゆがんで外れたり,腐食が進んですき間ができ,細菌が内部へ侵入して,むし歯の再発と進行が起きてしまうことが知られています.これは,外れてしまうか痛みが出て初めて気づくことが多いです.また,プラスチックの詰め物やかぶせものは,最初は歯の色に近く,自然観があるのですが,奥歯に使用した場合,早い人では1〜2年で大きくすり減ったり,割れて再治療が必要になる場合が多いようです.ほとんどの人は歯を削り、何か詰め物やかぶせものを入れると「もう大丈夫」と安心しがちですが,長期間治療の結果を保つためには,実際には,材料の選択と日々の行動が重要だと気付いてほしいと思っています.

二次う蝕を防止するのは日本の現状や医療環境,人々の意識からみると非常に難しいことが多いと思われます.また,保険制度にも限界があります.日本は健康保険制度が良く整備されていますが,その内容はとても詳細に決められていて驚くほどシビアです.その割に,かかる費用を見てみると世界的に見てもダントツで安いです.患者さんにとっては治療費が安くすむためとても助かる制度なのですが,その反面「痛くなってから治療すればいいや」という意識を産み日頃からのメンテナンス・予防を怠りやすいということが考えられるかもしれません.歯科医療を行う立場から言うと保険制度にのっとた治療を行うと,上で述べたような治療や使用する素材に制限が出てくるという問題点があり,治療そのものに限界があると言えます.

つまり新しい治療法やより品質の良い材料が開発されても保険を適用することはできないので自費治療になります.自費になると患者さん負担の費用が高くなり,患者さんが選択しにくい・・・というジレンマが起こっているのが現状です.再治療を防ぐための良い方法や材料があっても,保険では提供できないのです.また,保険治療自体の単価が安すぎるため,良い治療を時間をかけて行おうとすればするほど,赤字になるという苦しさもあります.

保険制度では全ての歯を同じ取り扱いにしている.そこにむし歯再発の問題点が.だからこそ予防を推進したい.

限られた時間の中で,制限された材料しか使えず,費用がかけられない中でむし歯の再発を阻止するには限界があります.肉眼では判別が出来ないような銀歯の隙間に歯ブラシが届くはずがないのです.むし歯の原因となるむし歯菌のすみかを除去できない歯磨きを1日に何回行ったとしても根本的な解決にはならないと理解してほしいと思います.

 大切なのは「治療が必要なむし歯」だけにアプローチし,歯を削って詰め物やかぶせものをすることだけではなく,「原因」にアプローチをし,その原因を日々コツコツと取り除くことです.その原因をお口の中から取り除くためには,普段から予防を中心にそえたアプローチが大切なことをまちの歯科医院では皆さんにお伝えしています.

「同じ歯は5回しか治療できない.」ことを皆さんはご存じでしょうか.予防の考え方がなければ,どんなに高価な金の詰め物やセラミックの歯をしたところでむし歯は再発し,歯を失ってしまうことにつながってしまいます.

繰り返しますが,同じ歯を5回治療すれば歯の寿命が終わるのです.予防を中心にした治療を行わなければどんなに高価なセラミックを入れても意味が無くなってしまうのです.

むし歯菌を押さえ込むために,歯科と患者さん相互の協力が不可欠です.

ぜひ,皆さんにむし歯菌から歯を守るための予防の考え方や治療を受け,歯の寿命が減ったことへの危機感をしっかりと持ち定期検診や適切なメンテナンス,ケアの方法について指導を受けて,ご自身の口の中の状態を常に理解把握しておくことをお勧めしたいと思います.定期検診を受けている人と定期検診を受けずに治療を繰り返している人では,生涯の歯の残存本数は驚くほど差が出てくることは明らかです.また,定期的に歯科検診を習慣をもつことで自分の口の中のわずかな変化や症状に気付きやすくなります.治療を受ける前の予防と治療をしてからの対策とではややニュアンスが違うかもしれませんが,どちらも治療回数を減少させるための柱となる考え方であり,この意識を定着させることが私たち,まちの歯科医院の使命だと自覚し,スタッフ全員で取り組み続けています.

お口の健康に対するご質問などは,どうぞお気軽にスタッフにお声かけください.

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