お子様の「お口ポカン」に気付いておられますか?その原因と健康への影響について

2025年09月30日(火)

子どもたちに見られる「お口ポカン」現象とは

口を開けるのが癖になっている男の子

最近の子どもたちのお顔を観察していると、無意識のうちに「口がぽかん」と開いたままの状態でいることが多い子どもが増えていることに気づきます。

この状態は正式な医学的病名ではありませんが、歯科医療の現場では通称「お口ポカン」と呼ばれており、近年、その数は着実に増加傾向にあることが報告されています。

お口ポカンの状態とは、安静時に上下の唇が自然に閉じることができず、常に口が開いている状態を指します。通常、人は安静時には自然に口を閉じて鼻呼吸を行うものですが、この状態の子どもたちは意識的に口を閉じようとしなければ、常に口が開いたままとなってしまいます。

この現象は単なる癖や習慣の問題として軽視されがちですが、実はお口の機能の発達や全身の健康に深刻な影響を与える可能性があるため、早期の発見と適切な対応が重要なのです。

特に成長期にある子どもたちにとって、この時期の口腔機能の確立は、将来の健康や生活の質に大きな影響を与えるため、大きくクローズアップされていて、保護者や教育関係者、医療従事者が連携して取り組むべき問題として認識されています。

また、お口ポカンの状態は見た目の問題だけではなく、口腔内環境の悪化、感染症のリスク増加、学習能力への影響など、様々な健康問題を引き起こす可能性があることも明らかになってきており、包括的なアプローチによる改善が求められています。

お口ポカンを引き起こす多様な原因メカニズム

口を開けるメカニズムを考えるイメージ

お口ポカンの発症には、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って関与していることが研究により明らかになっています。これらの原因を正確に把握し、個々のケースに応じた適切な対応を行うことが、効果的な改善につながります。

最も代表的な原因の一つとして、舌の機能異常が挙げられます。

特に、舌を前方に突き出す動作を「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」と呼びますが、これが習慣化しているとこの動作により上下の歯列の間に隙間が生じてしまいます。舌は本来、口蓋(上あご)にしっかり接触した状態で安静位を保つべきですが、舌突出癖がある場合、舌が前方に位置することで自然な口唇の閉鎖が困難になって、結果として口が開いた状態が持続してしまうことがあります。

また、鼻腔の通気性に問題がある場合も、口で息をしてしまうのでお口ポカンの重要な原因となります。

アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症、アデノイド肥大、扁桃肥大などの疾患により鼻呼吸が困難になると、代償的に口呼吸が習慣化し、口が常に開いた状態となってしまいます。

これらの疾患は子どもに多く見られるため、お口ポカンの背景にある医学的問題として十分な検討が必要です。

さらに、口腔周囲筋の筋力低下や協調性の問題も重要な要因として考えられます。

現代の食生活では軟らかい食品が中心となっており、咀嚼に必要な筋力を十分に鍛える機会が減少しています。その結果、口唇や頬筋、咀嚼筋群の発達が不十分となり、口を閉じる力が弱くなってしまうことがあります。お口の周りの筋肉の発達が弱いのですね。

また、遺伝的要因や骨格的要因、環境要因も無視できません。顎の大きさや形、歯列の状態、顔面の骨格的特徴などが、口唇閉鎖の困難さに関与することもあります。特に下顎の発育不全や上顎前突などの骨格的不正咬合がある場合、物理的に口を閉じることが困難になる場合があります。

環境の要因としては、赤ちゃんが生まれて、0歳から始まる授乳の方法や、口の動かし方、離乳食への移行時期など様々なことが関連していると考えられています。

口呼吸が引き起こす口腔内環境の劣化

ドライマウスのイメージ

お口ポカンの状態が続くことで最も直接的な影響を受けるのは口腔内環境です。常に口が開いていることで、口腔内の水分が蒸発し、慢性的な乾燥状態、いわゆるドライマウスが生じます。この状態は単に口の中が乾くだけの問題ではなく、口腔内の生態系全体に深刻な変化をもたらします。

唾液は口腔内の健康維持において極めて重要な役割を果たしています。唾液には強力な抗菌作用や殺菌作用があり、口腔内に侵入した細菌やウイルスの繁殖を抑制し、感染を防ぐ働きがあります。また、食べ物の残渣を洗い流し、歯の表面についた酸を中和する緩衝作用も持っています。さらに、唾液に含まれるカルシウムやリン酸イオンは歯の再石灰化を促進し、初期のむし歯を修復する働きもあります。

しかし、口呼吸により口腔内が乾燥すると、これらの唾液の有益な作用が著しく減弱してしまいます。その結果、口腔内の細菌バランスが崩れ、むし歯の原因となるミュータンス菌や歯周病の原因となる嫌気性細菌が異常に増殖しやすい環境が形成されます。特にむし歯菌の活動は活性化し、通常よりもはるかに高い頻度でむし歯が発生するリスクが生じます。

また、唾液の減少により口腔内のpH値も酸性に傾きやすくなり、歯のエナメル質の脱灰が促進されます。これにより、歯の表面が粗造になり、さらに細菌が付着しやすい環境が作られるという悪循環が生じてしまいます。

歯茎の健康状態も深刻な影響を受けます。乾燥した環境では歯茎の血流が悪化し、組織の抵抗力が低下します。その結果、歯肉炎や歯周病が発症しやすくなり、進行も早まる傾向があります。特に成長期の子どもにとって、この時期の歯周組織の健康状態は将来の口腔健康に長期的な影響を与えるため、深刻な問題となります。

全身の健康に及ぼす広範囲な悪影響

風邪をひきやすい女の子

お口ポカンによる口呼吸の習慣化は、口腔内だけでなく全身の健康にも様々な悪影響をもたらします。これらの影響は相互に関連し合い、子どもの成長発達や生活の質に深刻な問題を引き起こす可能性があります。

最も顕著な影響の一つは、感染症に対する抵抗力の低下です。鼻腔には外気を温め、湿度を調整し、細菌やウイルスなどの病原体を除去する重要な機能があります。

鼻毛や鼻腔内の粘膜は天然のフィルターとして働き、有害な物質の体内への侵入を防いでいます。しかし、口呼吸では這らのフィルター機能を経由せずに直接空気が肺に送り込まれるため、細菌やウイルス、花粉、塵などが直接呼吸器系に到達してしまいます。

その結果、風邪、インフルエンザ、気管支炎などの呼吸器感染症にかかりやすくなります。また、アレルギー反応も起こりやすくなり、喘息の発症リスクも高まることも報告されています。

免疫系への負担が増加することで、全身の免疫力も低下し、様々な疾患に対する抵抗力が弱くなってしまうのですね。

口臭の問題も深刻です。口腔内の乾燥により細菌が異常増殖すると、これらの細菌が産生する硫黄化合物などの揮発性物質が口臭の原因となります。

子どもの場合、口臭があることで友人関係に影響が出たり、自信を失ったりする可能性があり、心理社会的な発達にも悪影響を与えかねません。

睡眠の質にも大きな影響があります。口呼吸は睡眠時無呼吸症候群のリスクを高め、深い睡眠を妨げます。その結果、日中の集中力低下、学習能力の減退、成長ホルモンの分泌不足による身体発育の遅れなど、様々な問題が生じる可能性があります。

さらに、口呼吸による酸素摂取効率の低下は、脳の酸素供給にも影響を与え、認知機能や学習能力の発達に悪影響を与える可能性も指摘されています。集中力の維持が困難になり、学校での学習成果にも影響が現れる場合があります。

顔面発育と歯列への長期的影響

叢生の女の子の口元

お口ポカンの状態が長期間続くことで、顔面の骨格発育や歯列の形成にも重大な影響を与えることがわかってきました。成長期における口腔機能の異常は、顔面の正常な発育パターンを阻害し、将来的な顔貌や咬み合わせに永続的な変化をもたらす可能性があります。

舌の位置異常が続くと、上顎の幅の発育が不十分となり、狭窄した歯列弓が形成される傾向があります。また、常に口が開いている状態では、下顎の正常な発育も阻害され、下顎後退や開咬などの不正咬合が生じやすくなります。これらの骨格的変化は、単に見た目の問題だけでなく、咀嚼機能、発音機能、顎関節の健康などにも長期的な影響を与えます。

歯列の配列にも影響があり、叢生(歯並びのでこぼこ)や空隙歯列(すきっ歯)などの問題が生じやすくなります。これらの歯列不正は、清掃性の悪化を招き、むし歯や歯周病のリスクをさらに高めるという悪循環を生み出します。

早期発見と専門的アプローチの重要性

歯科医院を受診した女の子

お口ポカンの問題は、早期に発見し、適切な専門的アプローチを行うことで大幅に改善することが可能です。しかし、その改善には原因の正確な診断と、個々のケースに応じた包括的な治療計画が必要となります。

まず重要なのは、お口ポカンの背景にある具体的な原因を特定することです。鼻腔の通気性に問題がある場合は耳鼻咽喉科での治療が必要ですし、舌機能の異常がある場合は口腔機能訓練が効果的です。口腔周囲筋の筋力低下が原因の場合は、専用のトレーニングプログラムを実施することもあります。

まちの歯科医院では、お家でできる手軽な訓練法として,「あいうべ体操」をご紹介しています。詳細はリンクからご確認ください。

治療アプローチには、機能訓練、筋機能療法、口腔筋機能療法(MFT)、必要に応じて矯正治療なども含まれます。また、生活習慣の改善指導、食事指導、姿勢の改善なども重要な要素となります。

保護者の協力も不可欠であり、家庭での継続的な観察とトレーニングの実践が治療効果を大きく左右します。定期的な経過観察により、改善状況を評価し、必要に応じて治療方針の調整を行うことも重要です。

早期の介入により、多くの場合で良好な改善が期待できます。お口ポカンが気になる場合は、まず専門家に相談し、適切な診断を受けることから始めることをお勧めします。子どもの健康な成長発達のために、この問題を軽視せず、積極的に取り組むことが大切です。

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